白い素材の詰め物・かぶせ物のメリット・デメリットについて(前半)
Q:Sさん 40代女性
相談です。
今、口の中に金属の詰め物がいくつか入ってます。これをセラミックの白い物に交換したいと思っているんですが、見た目が良くなる以外に何かメリットはありますか。逆にデメリットはありますか。
詰め物の数が多くてそこそこ高額になりそうなので悩んでいます。
A:院長 矢島
ご質問ありがとうございます。
歯の詰め物・かぶせ物に関する質問は、皆さんから非常によく聞かれる内容のひとつです。今回はこれを5つのポイントに分けて説明していきます。
長いですよ。
※ちなみに歯の詰め物(インレー)・かぶせ物(クラウン)などの事を専門用語でまとめて補綴物(ほてつぶつ)と言います。
仰るように、白い天然の歯に保険の金属補綴物を入れてしまうと、会話中に笑ったり食事をする際にどうしても目立ってしまいますよね。
目立つ度で言ったら、下の歯の方が上の歯よりも目立ちやすいです。また、奥よりも手前の歯の方が当然目立つので、もし銀歯が目立つ歯ランキングを作るとしたら、詰め物にもよりますが個人的に…
1位:下の小臼歯(前から4、5番目の歯)
2位:下の大臼歯
3位:上の小臼歯(前から6、7番目の大きな歯)
4位:上の大臼歯
という順番になるでしょうか。
(6番目の大臼歯です。お口の大きさにもよります。)
ただ、これはインレーの大きさやクラウンかどうかによっても見え具合が変わって来ます。また、上の小臼歯に金属の被せ物を入れると、笑った時に結構見えてしまいます。
また、身長が高い方の場合は笑った時や口を開けた時に上の奥歯も見えやすい傾向があります。
(5番目の小臼歯です。笑うと見えるんですよね。)
さて、このような場合は銀歯の代わりにセラミックやジルコニア(人工ダイヤモンドとも言われます)、レジン(歯科用のプラスチック素材)と言った白い素材を使う事で問題を解決できます。
これらの素材は、一言で「白」と言っても、歯の色と馴染むように様々な色の種類が用意されているので、もともと歯の色が黄色い傾向の方から、ホワイトニングをして綺麗な白い歯になっている方まで、幅広く色を馴染ませる事が可能です。
(セラミックの元です。メーカーより抜粋)
更に、セラミックやジルコニアで歯を作る場合は、本物の歯と見比べても分からないくらい、色だけでなく、ちょっとした斑模様や細かいヒビ、透明感などまで忠実に再現する事が可能です。
技術の高い技工士(歯を作ってくれる専門職の方)が作る前歯のクラウンは、僕らが見ても一瞬本物の歯と見間違える事があります。
出来上がった被せ物を試着した状態で患者さんに鏡を見てもらった際、開口一番に「…え、どれが被せ物?」「全然わかんない!」というびっくりを頂いた時は、心の中で大きくガッツポーツをしていたりします。
患者さんが嬉しいので僕も嬉しい。更には気合を入れて作ってくれた技工士さんも嬉しい。これは間違いなく保険治療では絶対に得られない最大の満足感です。
また、見た目の面でもう一つ注意が必要なのが「歯肉黒変(しにくこくへん)」という症状です。金属を使用した補綴物が口の中に長く入っていると、唾液などの影響で金属が腐食し成分が徐々に溶け出して行きます。これが補綴物周りの歯肉に影響して色が黒っぽく変色してくることがあります。
特に保険で使用している銀歯の素材は、歯肉黒変を起こしやすいので注意が必要です。メカニズムはちょっと違うのですが「メタルタトゥー」とも言います。
一方、セラミックやジルコニアのような白い素材は、そもそも金属を使用していないので上記のような変色のリスクはありません。
強度の面では、一見金属の方が有利なように思えます。
よく、患者さんからも「セラミックって割れたり欠けたりしないんですか?」と心配そうに聞かれます。
確かに、セラミックは欠ける可能性があるのですが、一昔前に比べると素材の性能はどんどん良くなって来ています。なので、補綴の設計や噛み合わせの調整さえしっかりとされていれば、そうそう壊れる事はありません。
もしも、つけたばかりの詰め物が食事の時に真っ二つに割れたりするような事があれば、それは設計が薄かったり噛み合わせの調整が良くない事が多いです。
人工ダイヤであるジルコニアは、昔、試してみましたが踏んでも割れません。
(しかもキレイなんです。ジルコニア。)
調べてみましたが。モース硬度と言う硬さの単位で言うと8から8.5だそうです。鋼鉄やガラスに傷をつけられる石英が7なので、それよりも硬い事になります。地球上で一番硬いと言われているダイアモンドが10です。
岩塩は2~2.5だそうです。
ただし、夜寝ている間に歯ぎしりをする人や、強く食いしばってしまう癖がある人などは、正しい調整をしていても割れてしまう事があります。
そのため、そういった癖(悪習癖と言います)がある方には、歯や顎を守るために夜間のマウスピース着用をお願いするケースもあります。
そう考えると、金属は多少無理な力がかかっても変形したり歪んだりするだけで、簡単に取れたり割れたりする事はありません。「壊れない」「取れない」と言うのは補綴物として大事な要素だと思いますが、これが逆に問題の原因になる事があるんです。
これは、④の「二次カリエス」で詳しくお話ししますね。
セラミックやジルコニアといった治療のデメリットを挙げるとしたら唯一これでしょうか。
これらは保険適用外の素材なので、保険の銀歯と比べると費用は10倍近く変わって来ます。病院によっても値段の差はありますが、インレーなら3〜6万程度。クラウンだと7万から十数万になる事もあります。
これを高いと感じるかどうかはその方次第かと思いますが、海外では歯が綺麗な事が社会的なステータスと直結するので、お仕事での第一印象がより良くなったり、金属が見える事を気にしないで毎日気兼ねなく笑えたりするのであれば、
「お買い物をちょっと我慢しようかな。」
と考えてもらってもいいんじゃないかな…と感じる日々です。美容外科よりも手軽に、高級バッグ以上の満足感。と言った感じでしょうか。
歯は何十年も付き合う物ですしね。
自分は気にしていなくても、意外と面と向かった話している人からは「あ、金属がある。」と気づかれているものです。勿論、敢えて指摘する方もいないと思いますが。
特に僕等は職業病のようなものなので、どうしても目が行ってしまいます。補綴物や仮歯はだいたいひと目で分かります。何気なく会話している中で僕らにバレないような前歯の被せ物だったら、それは良く出来た被せ物な証拠でしょう。
周りに自慢してもいいですよ。
(でも、最近本当に綺麗なの多いんですよねぇ…)
また、保険外の補綴物は素材の強度や使う接着剤の種類が違うので、調整さえちゃんとされていれば、単純に保険の補綴物よりも長持ちします。
よく「どれくらい寿命が違うんですか?」と聞かれるのですが、これは補綴物の形や歯ブラシの良し悪しによる虫歯リスクなど、いろんな要素で大きく変わるので一概には言えませんが、僕の個人的な感覚としては「セラミックの方が金属よりも軽く2〜3倍は長持ちする物」だと思っています。
虫歯になってしまったり、接着剤が劣化して外れてしまうケースが多いのですが、素材自体は無事な事が多いです。
なので、「1回の治療で長く使える」と考えたら、保険治療で短期にダメになってしまって何度も治療をやり直すよりかはコストパフォーマンスが高いと言ってもいいのかもしれません。
「あれ、さっき〈②強度〉で『金属は壊れない、取れない』って言ってなかったっけ?」と感じた人もいるかも知れませんね。この大きな落とし穴についても④二次カリエスでお話ししようかと思います。
さて、①〜③で結構なボリュームになってしまいました。
前半はここで終了としまして、続きの「④二次カリエス」「⑤健康面への影響」は後半でお話しさせて貰おうと思います。
最後までお付き合いありがとうございました!
→後半へ続く