“一番いい治療”は本当に存在するのか?──歯科治療に正解はある?
目次
「この治療が一番いいですよ」
歯医者でそう言われたとき、
あなたは素直に「はい」と答えますか?
それとも、「専門家が言うなら間違いないだろう」と、少し考える余地を残したまま、なんとなく話を進めていたりしませんか?
まず大前提として、医療に100点満点はありません。
「誰にでも当てはまる一番いい治療」や「絶対に正しい答え」
そういったものは、残念ながら存在しません。
これは、歯科医師の立場から見ても事実です。
むしろ現場にいるからこそ、
100点を取ることの難しさに日々直面し、
「そりゃ迷うよなぁ」と感じる場面を何度も見てきました。
それでも、つい聞きたくなってしまう。
「一番いい歯科治療はどれですか?」
「おすすめの治療を教えてください」
インターネットで、
「歯の治療 正解」
「歯医者 一番いい治療」
「銀歯 セラミック どっちがいい」
と検索すれば、もっともらしい答えはいくらでも見つかります。
ですが、その多くは
あなたの歯を一度も見ていない状態で書かれた答えです。
いわば、
「ネット通販サイトで、長身のイケメンモデルが着こなしている服は、誰が着ても同じ仕上がりになるのか」
という問題に近いのではないでしょうか。
もちろん、参考にはなります。
雰囲気も分かるし、方向性も見える。
でも、
サイズ感やシルエットまで同じようにハマるかどうかは、
まったく別の話です。
私自身も、
「これは間違いないだろう」と思ってポチって、
届いた翌日、肩を落としながら静かにフリマアプリを開いている。
そんな経験が何回かあります。
(特に――
靴はネット通販で買っちゃダメですね。
世界には、あまりにいろんなサイズの27.5cmに溢れてます…)
医療も、これに似たようなポイントがあったりします。
歯の状態、噛み合わせ、生活習慣、価値観。
それらが違えば、全く同じ治療をしたとしても、
「満足のいく治療」になる人と
「後悔が残る治療」になる人が出てきます。
歯科治療は、ただ虫歯を削って終わり、ではありません。
治療費、通院回数、見た目、そして数年後に再治療が必要になるかどうか。
その選択は、これからの生活に長く影響します。
それなのに、選択肢も提示されずに
「これが一番いい治療ですよ」
の一言で、なんとなく話が進んでしまうことは珍しくありません。
この記事では、歯医者でよく聞くけれど、
意外と誰もきちんと説明してくれない次のような疑問について、順を追ってお話ししていきます。
- 歯科治療に「正解」や「一番いい治療」は本当に存在するのか
- 銀歯・プラスチック・セラミックは、結局どれがいいのか
- 「おすすめの治療」と言われたとき、何を基準に考えればいいのか
- 歯医者の説明が分かりにくいと感じるのは、なぜなのか
- 歯の治療で後悔しないために、患者さんが知っておくべき考え方
検索すれば答えが出そうで、
実は自分の歯にはそのまま当てはまらない話ばかりです。
なぜ人は「一番いい治療」を求めてしまうのか
医療には“正解がある”と思い込んでいないか
私たちは、知らず知らずのうちに
「医療には正解があるもの」
と考えてしまいがちです。
検査をすれば診断名がつき、
診断名がつけば治療法がバチっと決まる。
どこかでそんなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
確かに、医療の中には
「これをやっておけばまず間違いない」
と言える治療も多いですが、
歯科治療は少し事情が違います。
歯科治療は特に、
- 選択肢が複数存在することが多い
- 生活や価値観の影響を強く受ける
- 医療と美容の要素がセットになっている
という特徴があります。
にもかかわらず、
「一番いい治療はどれですか?」
と聞きたくなるのは、決しておかしなことではありません。
むしろ、
迷っているからこそ“正解”を求めている
とも言えます。
問題なのは、
その問いに対して返ってきた
「これが一番いいです」
という言葉を、深く考えずにそのまま受け取ってしまうことです。
「先生がそう言うなら」
「プロが言うなら間違いないだろう」
そう思った瞬間、
選択の主体が、患者さん自身から離れてしまうことがあります。
歯科治療に正解が“まったく存在しない”わけではありません。
ただ、その正解は
誰にでも同じ形で当てはまるものではない
というだけなのです。
ネットで検索すれば答えが出る時代の落とし穴
もう一つ、「一番いい治療」を求めてしまう理由があります。
それが、
検索すれば、すぐに答えが見つかる時代に生きていることです。
「歯科治療 正解」
「歯医者 おすすめ 治療」
「銀歯 セラミック どっちがいい」
こうした言葉で検索すると、
ランキング形式の記事や、断定的な見出しがずらりと並びます。
「これがベスト」
「これを選べば間違いない」
そんな言葉を見ると、
つい安心したくなるのも無理はありません。
ですが、冷静に考えてみてください。
その情報は、
あなたの歯を見て書かれたものではありません。
AIはあなたの口の中を見ていません。
・虫歯の大きさ
・噛み合わせ
・歯ぎしりや食いしばりの有無
・これまでの治療歴
・生活スタイルや通院のしやすさ
これらを一切考慮せずに、
「一番いい治療」が決められるはずがありません。
検索で出てくる答えは、あくまで「参考情報」です。
便利ではありますが、
そのまま自分に当てはめてしまうとズレが生じることもあります。
だからこそ大切なのは、
「スマホに聞いた正解」を探すことではなく、
自分の状況に合った選択肢を提示してもらい、その違いを理解することです。
歯科治療は、
誰かが決めた「一番いい」をなぞるだけのものではありません。
複数の選択肢の中から、
メリットとデメリットをきちんと知ったうえで、
自分にとっての“一番いい治療”を選んでいくものなんです。
歯科治療に「唯一の正解」が存在しない理由
口の中は、全員違う
まず大前提として知っておいてほしいのは、
人の口の中は、驚くほど一人ひとり違うということです。
歯の本数は同じでも、
歯の大きさ、形、並び方、噛み合わせ、顎の動き。
まったく同じ口の中というものは存在しません。
人種や性別、年齢によっても条件は変わります。
さらに、
- 虫歯の進行具合
- 歯の神経の状態
- 過去の治療歴
- 歯ぎしりや食いしばりの有無
といった要素が加わると、条件はさらに複雑になります。
「同じ場所の虫歯だから、同じ治療でいい」
という発想は、実はかなり危うい考え方です。
表面上は似たように見える症例でも、
内部の状態が違えば、適した治療も変わります。
だから歯科医師は、
レントゲンや口腔内写真を撮り、
噛み合わせを確認し、
必要に応じて何度もチェックを行います。
それは、
「正解を探すため」ではなく、
その人の口の中に合った選択肢を見つけるためです。
生活背景・価値観・優先順位が違う
歯科治療を考えるとき、
口の中の状態だけを見ればいいわけではありません。
同じ治療でも、
- 忙しくて通院回数を減らしたい人
- 費用をできるだけ抑えたい人
- 見た目を重視したい人
- 将来の再治療リスクをできるだけ減らしたい人
それぞれ、優先順位が違います。
例えば、
「長持ちする治療が一番いい」
という考え方もあれば、
「今回は最低限でいいから、負担を減らしたい」
という選択もあります。
どちらが正しい、という話ではありません。
歯科治療は、
その人の生活や考え方と切り離しては成り立たない医療です。
にもかかわらず、
価値観を聞かれないまま
「これが一番いい治療です」
と決められてしまうと、違和感が生まれる事になります。
本来は、
口の中の状態 × 生活背景 × 価値観
この三つを重ね合わせて考える必要があります。
同じ症例でも治療計画が変わる現実
実際の臨床現場では、
「まったく同じ症例」など、ほとんどありません。
もちろん、
「これはあのケースと似ているな」
「あの人の治療を応用するといい感じになるな」
というのはあります、
ただし、仮に、
「奥歯に虫歯がある」
という同じ診断名がついたとしても、
- 年齢
- 仕事や生活リズム
- これまでの治療経験
- 今後のライフプラン
などが違えば、治療計画は微妙に変わったりします。
ある人にとっては、
「多少費用がかかっても、長持ちする治療」
が最適かもしれません。
別の人にとっては、
「まずは保険治療で様子を見る」
という選択が、現実的な“正解”になることもあります。
つまり、
歯科治療の正解は、
症例そのものではなく、人に紐づいて決まる
ということです。
だからこそ、
治療の説明では
「これが一番いい」
という一言で終わらせるのではなく、
- どんな選択肢があるのか
- それぞれのメリットとデメリットは何か
- どんな人に向いている治療なのか
を整理して伝える必要があります。
歯科治療に「唯一の正解」が存在しないのは、
歯科医師が迷っているからではありません。
人の口と人生が、それぞれ違うからです。
たとえば、こんな二人を比べてみてください
虫歯で前歯のかぶせ物治療が必要な二人の患者さんがいるとします。
Aさんの場合
- 30代女性
- 人と話す機会が多い仕事
- 見た目をとても大切にしている
- 歯の削れはあまり無い
- 噛み合わせも比較的安定している
Aさんの口の中は、
歯のすり減りも少なく、
噛む力のバランスも良好です。
この場合、
見た目の理想をしっかり追求しても、
噛み合わせへの影響が出にくい状態と言えます。
多少コストがかかっても、
色・形・透明感といった
見た目の細かい部分までこだわった治療を選ぶことが、
現実的な選択肢になります。
Aさんにとっての「一番いい治療」は、
機能面の大きな制限を受けることなく、
審美性を重視した治療を選べる点にあります。
Bさんの場合
- 30代大柄の男性
- 費用はあまりかけたくない
- 強い歯ぎしり・食いしばりがある
- 歯がすり減り、全体的に歯が小さくなっている
- 朝起きると顎がだるいことが多い
Bさんの口の中を詳しく診てみると、
歯の先端や噛む面がすり減り、
本来の歯の形がかなり失われている状態だとします。
見た目を良くしたい、
白くてきれいな歯にしたい、
という希望があったとしても、
ここで、現実的な問題が出てきます。
それは、
「土台となる歯が削れて小さくなっている」
「大きな費用はかけたくない」
という点です。
歯がすり減っている状態で
理想的な見た目を追求しようとすると、
- 歯の高さを回復させる必要がある
- 噛み合わせ全体を見直す必要がある
- 場合によっては複数の歯を同時に治療する必要がある
と、治療は一気に大がかりになります。
つまりBさんの場合、
「見た目を良くする」という選択肢は確かに存在しますが、
それには時間・回数・費用・体への負担が増える
という前提を理解する必要があります。
Bさんにとっての「一番いい治療」は、
単に白くすることよりも先に、
将来的に、これ以上歯をすり減らさないための対策や、長期的な安定を優先する治療
になる可能性が高いのです。
同じ「虫歯」でも、できること・できないことは違う
AさんとBさんは、
診断名だけを見れば
「前歯の虫歯」という点では同じです。
ですが実際には、
- 歯のすり減り具合
- 噛む力
- 口腔癖(歯ぎしり・食いしばり)
- 噛み合わせの安定性
- かけられる費用
これらの違いによって、
「できる治療」と「無理のある治療」が変わってきます。
見た目を良くしたい、という希望は大切です。
ただし、その希望を叶えるために
どこまで治療が必要になるのか、
どこに現実的な限界があるのかを理解したうえで選ぶことが重要です。
歯科治療の正解は、
「理想」だけで決まるものではありません。
今の口の中の状態を踏まえて、無理のない選択ができているかどうか。
そこにこそ、本当の意味での「一番いい治療」があります。
「一番いい治療」は、誰にとっての“いい”なのか
医師にとってのベスト
歯科医師が考える「いい治療」とは、
多くの場合、医学的・技術的に見て安定している治療です。
たとえば、
- 長持ちしやすい
- 再治療のリスクが低い
- 噛み合わせに無理が出にくい
- 掃除がしやすい
こうした条件を満たす治療は、
歯科医師の目から見れば「良い治療」に映ります。
Bさんのように歯がすり減っているケースでは、
これ以上咬耗が進まないように配慮し、
噛み合わせの安定を優先する判断は、
医師としてはとても自然な選択です。
医師が「これが一番いいです」と言うとき、
そこには
「この治療ならトラブルが起きにくい」
「長期的に見て安全性が高い」
という意図が含まれていることが多いのです。
患者さんにとってのベスト
一方で、患者さんが考える「いい治療」は、
必ずしも同じ基準とは限りません。
患者さんが気にするのは、
- 費用はどれくらいか
- 通院は何回必要か
- 見た目はきれいになるのか
- 生活に支障は出ないか
といった、日常に直結する部分です。
Aさんのように、
見た目を重視したいという希望が明確な場合、
多少コストや時間がかかっても
「納得できる見た目」を得られることが、
その人にとっての“いい治療”になります。
つまり、
患者さんにとってのベストとは、
医学的に完璧かどうかよりも、納得できるかどうか
で決まることが多いのです。
ここに、
医師と患者さんの視点の違いがあります。
そのズレがトラブルを生む
問題が起こりやすいのは、
この二つの「ベスト」がすり合わないまま、
治療が進んでしまったときです。
医師は
「長持ちする、良い治療をした」
と思っている。
患者さんは
「思っていた見た目と違う」
「こんなに大変だとは聞いていなかった」
「なんで、こんなに費用がかかるんだ」
と感じている。
こうしたズレは、
治療の結果そのものよりも、
説明や理解の不足から生まれることがほとんどです。
「一番いい治療です」
という言葉が、
誰にとっての“一番いい”なのかが曖昧なまま
使われてしまうと、誤解が生じます。
だからこそ大切なのは、
医師が決めた“正解”を押し付けることではありません。
- どんな選択肢があるのか
- それぞれにどんなメリット・デメリットがあるのか
- どんな人には向いていて、どんな人には向かないのか
これらを共有したうえで、
医師の視点と患者さんの価値観をすり合わせていくこと。
AさんとBさんの例が示しているのは、
治療の優劣ではありません。
「一番いい治療」は、
立場によって意味が変わる
という、ごく当たり前だけれど見落とされがちな事実です。
その違いを理解し、
お互いの視点をすり合わせた先に、
本当の意味で納得できる歯科治療があります。
素材・治療法の選択は「価値観の選択」でもある
銀歯・プラスチック・セラミックに優劣はない
詰め物やかぶせ物の相談で、よく聞かれるのが
「結局、どれが一番いい素材なんですか?」
という質問です。
銀歯、プラスチック、セラミック。
どれも歯科治療として正式に使われている材料であり、
単純に「良い・悪い」で切り分けられるものではありません。
それぞれには、はっきりした特徴があります。
- 銀歯(保険)
費用を抑えられる/強度は比較的高い/見た目は銀色 - プラスチック(保険)
白い/費用は抑えられる/劣化や変色が起こりやすい - セラミック(自費)
見た目が自然/劣化しにくい/費用は高くなる
ここで大事なのは、
どの素材にもメリットとデメリットが必ずセットで存在する
という点です。
「セラミックが一番いい」
「銀歯はよくない」
といった単純な話ではありません。
違うのは「何を優先するか」
素材選びで本当に違ってくるのは、
その人が何を優先したいかです。
- とにかく費用を抑えたい
- できるだけ白くしたい
- 長持ちするものを選びたい
- 将来のやり直しを減らしたい
これらの優先順位は、人によって違います。
先ほどのBさんのように、
歯ぎしりや咬耗が強い場合、
見た目だけを追求するとトラブルが起きやすくなります。
一方でAさんのように、
噛み合わせが安定していれば、
審美性を重視した選択が現実的になることもあります。
素材そのものに「正解」があるのではなく、
その人の口の中と価値観に合っているかどうか。
そこが判断の軸になります。
失った歯の治療も「考え方」は同じ
この考え方は、
歯を失ってしまった場合の治療法選びでも同じです。
よく比較されるのが、
- ブリッジ
- 義歯(入れ歯)
- インプラント
の三つです。
ブリッジの場合
- 固定式で違和感が少ない
- 比較的短期間で治療が終わる
- 周囲の歯を削る必要がある
義歯(入れ歯)の場合
- 外科処置が不要
- 費用を抑えやすい
- 装着感や見た目に違和感が出ることがある
インプラントの場合
- 周囲の歯を削らずに済む
- 噛み心地が自然
- 手術が必要/治療期間と費用がかかる
ここでも、
「インプラントが一番いい」
「入れ歯はよくない」
という話ではありません。
たとえば、
- 手術に抵抗がある人
- 全身状態に不安がある人
- できるだけ早く治療を終えたい人
にとっては、
インプラントが“向かない選択”になることもあります。
逆に、
周囲の歯を守りたい、
長期的な安定を重視したい、
という人にとっては、
インプラントが理にかなった選択になることもあります。
「一番いい治療」は、条件によって変わる
素材でも、治療法でも、
共通して言えることがあります。
それは、
「一番いい治療」は、条件が変われば簡単に入れ替わる
ということです。
口の中の状態、
生活背景、
価値観、
将来の考え方。
それらを無視して
「これが一番いいです」
と言い切ってしまうと、
どこかに無理が生じます。
だからこそ大切なのは、
選択肢を知り、
それぞれのメリット・デメリットを理解し、
自分の基準で選ぶことです。
歯科治療は、
“正解探し”ではありません。
納得できる選択を積み重ねていくこと。
それが、後悔しにくい治療につながります。
ただ、ここまで散々
「正解は人それぞれです」
と言っておいてなんですが——
もし私自身が“患者として選ぶ側”の立場になったら、間違いなくセラミックを選びます。
理由はシンプルです。
白くて、劣化しにくくて、長持ちしやすい。
そして何より、
「あとからやり直す可能性が最も低い」
という点を、歯科医師として一番よく分かっているからです。
正直な話、
私だって治療は何度も受けたくありません。
麻酔の注射は嫌いです。
つまり、これが
私にとっての「一番いい治療」です。
……あくまで、私の場合は、ですが。
参考までに。
私たちが「一番いい治療」を押し付けない理由
選択を奪うことは、責任を奪うこと
「この治療が一番いいですよ」
一見すると親切で、
患者さんのことを考えた言葉に聞こえるかもしれません。
ですが、その一言で治療が決まってしまったとしたら、
選んだのは誰なのかが曖昧になります。
もし治療後に、
- 思っていた見た目と違った
- こんなに通院が必要だとは知らなかった
- 将来、やり直しが必要になった
と感じたとき、
患者さんはこう思うかもしれません。
「一番いいって言われたから選んだのに」
これは、患者さんの責任でしょうか。
それとも、説明をした側の責任でしょうか。
私たちは、
治療の選択に伴う結果は、できる限り“共有”されるべき
だと考えています。
そのためには、
医師が「一番」を決めてしまうのではなく、
患者さん自身が選べる状態をつくることが必要です。
選択肢を示さずに決めてしまえば、
一時的には楽かもしれません。
ですがそれは、
患者さんから「考える権利」と「納得する機会」を奪うことにもなります。
説明する事が歯科医師の役割
では、歯科医師の役割は何か。
それは、
「一番いい治療を決めること」ではありません。
- どんな選択肢があるのか
- それぞれにどんなメリットがあるのか
- 同時に、どんなデメリットや限界があるのか
- どんな人に向いていて、どんな人には向かないのか
これらを、
できるだけ分かりやすい言葉で整理して伝えること。
それが、歯科医師の重要な役割だと考えています。
実際、
銀歯・プラスチック・セラミックといった素材の違いも、
ブリッジ・義歯・インプラントといった治療法の違いも、
良い面だけを並べれば、どれも魅力的に見えてしまいます。
だからこそ当院では、
メリットだけでなく、必ずデメリットもセットで説明する
ことを大切にしています。
この考え方については、
別の記事で
「なぜ“良いこと”だけを話すのが誠実とは限らないのか」
という視点から、もう少し詳しくお話ししています。
「押し付けない」ことは、放置することではない
誤解してほしくないのは、
「押し付けない=何も言わない」
という意味ではない、という点です。
私たちは、
- 現在の口の中の状態
- 将来起こり得るリスク
- 治療ごとの現実的な落としどころ
については、
歯科医師としてきちんと意見をお伝えします。
そのうえで、
最終的にどの選択をするかは、患者さん自身が決める。
この順番を大切にしています。
歯科治療は、
誰かに決めてもらうものではありません。
説明を受け、理解し、
「これなら納得できる」
と思える選択をすること。
それが結果的に、
後悔の少ない治療につながります。
だからこそ、納得して選んでほしい
「勧められたから」ではなく
歯医者で治療を選ぶとき、
つい出てしまう言葉があります。
「先生がそう言うなら、それでお願いします」
もちろん、それ自体が悪いわけではありません。
専門家を信頼することは、とても大切です。
ただ、その一言で
「考えること」まで手放してしまっていないか。
そこだけは、一度立ち止まってほしいと思っています。
歯科治療は、
歯医者のものでも、歯科医師のものでもありません。
あなたの歯は、あなたのものです。
だから、
「勧められたから選んだ」
という理由だけで決まってしまう治療は、
あとから違和感が残りやすい。
それが、これまでたくさんの患者さんを見てきて、
私自身が感じてきた正直な実感です。
「理解したうえで選んだ」と思える治療へ
完璧な治療なんて、ありません。
どんな選択にも、必ずメリットとデメリットがあります。
だからこそ大切なのは、
あとから振り返ったときに、こう思えるかどうかです。
「全部聞いたうえで、自分で決めた」
「条件を理解したうえで、この選択をした」
「だから結果にも納得できる」
この感覚があるかどうかで、
治療の満足度は大きく変わります。
私たちが目指しているのは、
“正解を当てる治療”ではありません。
納得して選べる治療です。
歯科治療は、
「ネットで見たランキング1位をそのまま信じて買う」
ことではなく、
「レビューを読んだうえで、自分に合うか考える」ものです。
評価が高いことと、
自分に合うことは、別問題。
だからこそ、
「納得して選んだ」と言えることが大切です。
私たち歯科医師の仕事は、
治療の「正解」を一方的に決めることではありません。
できるだけ多くの選択肢を用意し、
それぞれのメリットとデメリットをきちんと説明し、
そのうえで、
患者さん自身が納得して治療を選び、進めていけるようにお手伝いをすること。
それが、私たちの役割だと思っています。
もし今、
「これで本当にいいのかな?」
と少しでも感じているなら、
その違和感は、無視しなくて大丈夫です。
歯医者は、変えていい。
相談していい。
立ち止まって考えていい。
少なくとも私たちは、
その選択を、変だとは思いません。
歯は、あなたのものです。
治療を選ぶ主体も、あなたです。
どんな治療を選んだかよりも、
なぜそれを選んだのかを、自分の言葉で説明できること。
それができるなら、
その選択は、きっと間違っていません。
私たちは伴走者として、その過程を最大限に応援します。
青山通り歯科 院長
2008年に日本歯科大学を卒業後、数々の臨床経験を積み、現在は青山通り歯科の院長として患者様に寄り添う治療を提供しています。最新のデジタル技術を活用し、審美歯科から予防歯科まで幅広い診療を行うことで、多くの患者様の信頼を得ています。
また、ウェディングや建築、アーティストのポートレート撮影を中心とするプロカメラマンとしても活動しています。
→詳細はこちら

