初期虫歯って、結局なんなの?
目次
「初期虫歯ですね。様子を見ましょう。」
そう言われて帰ってきたとき、頭の中に残るのはだいたいこんな疑問です。
「初期虫歯って、虫歯なの?虫歯じゃないの?」
「削らなくていいなら、放っておいていいってこと?」
「じゃあ何かすればいいの?何もしなくていいの?」
答えが出ないまま、とりあえずいつもより丁寧に歯磨きをしてみる。
普段は使わないフロスまで使ってみる。
でも何日かすると、もとのペースに戻ってしまう…。
そういう経験、あると思います。
正直に言います。
「初期虫歯」という言葉は、かなり誤解されやすい言葉です。
「虫歯の一歩手前」と思っている方が多い。
でも、それは正確ではありません。
初期虫歯は、すでに虫歯のプロセスが始まっている状態です。
「一歩手前」ではなく、「半歩踏み出した状態」と言った方が近い。
ただし——ここからが大事です——「踏み出した」からといって、もう取り返しがつかないわけではない。
この違いを正しく理解することが、初期虫歯との正しい向き合い方につながります。
このコラムでは、初期虫歯とは何か、なぜ痛みがないのか、「治る」とはどういう意味か、そしてC1(虫歯の最初の段階)との違いは何かを、できるだけ正確に、難しくなりすぎないようにお伝えします。
読み終えたとき、「初期虫歯と言われたときに何をすべきか」が、自分の言葉で説明できるようになっていれば、このコラムの目的は果たせたかなと思います。
そもそも「虫歯」とはどこから虫歯なのか
「虫歯になった」という言葉を、私たちは日常的に使います。
では、「どこから虫歯なのか」を正確に理解している人は、意外と少ない。
虫歯は、口の中の細菌が糖を分解するときに出す「酸」によって、歯の表面が溶けていく現象です。
歯は、主にカルシウムやリンなどのミネラルでできています。
このミネラルが酸によって溶け出すことを「脱灰(だっかい)」と言います。
脱灰は、食事のたびに起きています。
特に糖分を含むものを食べた後、口の中は酸性に傾き、歯のミネラルが少しずつ溶け出す。
でも——口の中の唾液には、この溶けたミネラルを歯に再び補充する働きがあります。
これを「再石灰化(さいせっかいか)」と言います。
健康な口の中では、毎日の食事のたびにこの「脱灰」と「再石灰化」が繰り返されています。
シーソーのように行ったり来たり…
このバランスが保たれている限り、歯はなかなか虫歯にはなりません。
問題は、このバランスが崩れたときです。
糖分の摂取頻度が高い、唾液の量が少ない、磨き残しが多い——そういった条件が重なると、脱灰が再石灰化を上回る。
歯のミネラルが補充しきれなくなり、少しずつ構造が脆くなっていく。
これが虫歯のプロセスの始まりです。
虫歯は”ある瞬間に突然なる病気”ではない
「先週は何ともなかったのに、今日突然虫歯になった」
時々耳にしますけどね。
実際はそうではありません。
虫歯は、ある日突然始まるものではありません。
脱灰と再石灰化のバランスが少しずつ崩れていく過程で、だんだん表面化してきます。
穴があいて初めて「虫歯だ」と気づく人がほとんどですが、そこに至るまでの間に、歯の中では長い時間をかけて小さな悪化が積み重なっていきます。
たとえば、右上の一番奥の歯の歯磨きが毎日少しだけ足りなかったとします。
磨き残しが残り続け、そこに糖分が供給され続け、細菌は酸を出し続ける。
毎日のわずかな脱灰が、再石灰化を少しずつ上回り続ける。
この「少しずつ」が、何ヶ月、何年と積み重なったときに——ある日の定期検診で「初期虫歯ですね」という診断になる。
驚くのは分かります。
「えっ、先月来たときは何もなかったのに?」
でも先月は「まだ検査で捉えられない段階だった」だけで、プロセスはずっと前から動いていた可能性があります。
これが、虫歯が「突然なる病気ではない」という意味であり、初期虫歯が「プロセスの途中」であるということなんです。
Löe(ローエ)の実験。
1960年代、スウェーデンで行われた有名な研究があります。
Harald Löe(ローエ)らによる「実験的歯肉炎」の研究です。
健康な若い被験者に一定期間ブラッシングを中止してもらいました。
するとどうなったか。
わずか数日で歯の表面にプラークが明らかに蓄積しはじめ、
約10日を過ぎた頃から歯ぐきに炎症が出現。
2〜3週間後にはほぼ全員に歯肉炎が確認されました。
ただし重要なのはここです。
ブラッシングを再開すると、炎症は回復した。
つまり、口の中は「数日単位」で環境が変化する。
しかし同時に、初期段階であれば元に戻せる。
この実験は虫歯そのものを観察した研究ではありません。
しかし、虫歯と歯周病の共通基盤である「プラーク」が、短期間で増えることを明確に示しました。
虫歯は突然できる病気ではありません。
数日間の磨き残しが直接穴を開けるわけではない。
でも、その小さなバランスの崩れが、長期的に続くと脱灰が優位になり、やがて初期虫歯として表面化する。
ローエの実験が教えてくれるのは、
「虫歯は突然起こる出来事ではなく、環境の積み重ねである」という事実です。
だからこそ、「今日は疲れたから磨かなくていいや」が数日続くだけで、口の中のバランスは確実に傾きます。
引用:EXPERIMENTAL GINGIVITIS IN MAN
H LOE, E THEILADE, S B JENSEN
初期虫歯とは「まだ穴があいていない状態」
初期虫歯を一言で言うなら、「歯の表面のミネラルが溶け出し始めているが、穴はまだあいていない状態」です。
歯科用語では「初期う蝕(しょきうしょく)」や「エナメル質初期う蝕」などと呼ばれることもあります。
ここで重要なのは、「まだ穴があいていない」という部分です。
穴があいていないということは、歯の構造としてはまだ「崩れていない」。
でも、ミネラルは溶け出し始めている。
見た目にはほぼ変化がなくても、歯の内部では変化が起きています。
よく「白い点」や「白く濁ったような部分」として見えることがあります。
これは脱灰によってエナメル質が脆くなり、透明感が失われているサインです。
エナメル質で起きていること
歯の一番外側にある層を「エナメル質」と言います。
体の中で最も硬い組織で半透明です。
厚みは場所によって異なりますが、奥歯の噛む面では数ミリあります。
初期虫歯の段階で起きているのは、このエナメル質の中での変化です。
エナメル質は、ハイドロキシアパタイトという結晶構造でできています。
脱灰が進むと、この結晶が少しずつ溶け出します。
外側の表面はまだ保たれていても、内部のミネラル密度が下がっていく——これが初期虫歯の実態です。
表面は無傷に見えても、中が少しずつ変わっている。
スマートフォンの画面に例えるなら、ガラスの表面に細かなヒビが入り始めているが、まだ剥がれて穴があいてない状況——そんなイメージに近いかもしれません。
機能的には問題がなく、見た目にも大きな変化がないため多くの人は気にしません。
…早めに修理に行きましょう。
要は、見た目には大きな変化がないのに、内部では確実に何かが変わっている。
だから初期虫歯は発見しにくく、見過ごされやすいということです。
定期検診でレントゲンや専用の検査器具を使うのは、こうした「表面からは見えない変化」を捉えるためです。
なぜ痛みが出ないのか
初期虫歯の段階で痛みが出ないのは、「歯の神経に変化が届いていないから」です。
歯の神経(歯髄)は、エナメル質の内側にある象牙質、さらにその内側にあります。
初期虫歯はエナメル質の中で起きている変化であり、神経にはまだ影響が届いていない。
だから、何の違和感もない。
痛みもない。しみることもない。
見た目も変わっていないように見える。
これが、初期虫歯の厄介なところです。
「痛みがない=問題ない」では、ちょっと危機感が足りないかもしれません。
これははっきり言っておきます。
痛みが出る頃には、すでに虫歯が進行していることがほとんどです。
初期虫歯で症状がないのは「まだ間に合う」というサインであって、「何もしなくていい」というサインではありません。
初期虫歯は「治る」のか?
結論から言うと、「治る可能性がある」です。
ただし、この「治る」という言葉には注意が必要です。
初期虫歯が「治る」とは、「なかったことになる」という意味ではありません。
「再石灰化によってミネラルが補充され、構造が安定した状態に戻る」という意味です。
ヒビが入ったプラスチックがあったとして、ヒビの部分を接着剤で埋めて固定するようなイメージです。
穴があいていない段階、つまりエナメル質の構造が保たれている段階であれば、再石灰化によって状態を改善できる可能性があります。
逆に、穴があいてしまった段階では、もう再石灰化では対応できません。
崩れた構造はもう元に戻らないですし、あいた穴に汚れが残ればどんどん虫歯は進行してしまいます。
だからこそ、初期虫歯の段階での対応が重要になります。
再石灰化とは何か
再石灰化とは、溶け出したミネラルが再び歯に取り込まれる現象です。
唾液の中にはカルシウムやリンと言ったミネラル分が含まれていて、脱灰で失われた歯の成分を補充する役割があります。
フッ素もこのプロセスを助ける働きがあり、フッ素が存在する環境ではより強い結晶構造が形成されやすくなります。
巷でしきりに「フッ素を使いましょう!」と言っているのは、
① 歯の成分の強化
→ 具体的にはフルオロアパタイト(酸に強い結晶)が形成されやすくなります。
に加え、この
② 再石灰化の促進
この二つの効果を期待しているからです。
再石灰化が起きやすい条件は——
① 食後の時間をある程度あけること(口の中が酸性に傾いている時間を短くする)、
② 間食の頻度を減らすこと(脱灰の機会を減らす)、
③ フッ素入り歯磨き粉を正しく使うこと、
④ 唾液がしっかり分泌されること(水分補給、よく噛むこと)——
これらが揃うと、再石灰化が起きやすい環境になります。
ただし、再石灰化は「意識してやれば確実に起きる」ものではありません。
条件を整えることで、起きやすくなる、というものです。
もう一つ大事なことを言うと、先ほども書きましたが、再石灰化は「全くの元通りになること」ではありません。
脱灰で失われたミネラルが補充されることで、構造が安定する——これが再石灰化の意味です。
完全に「虫歯になる前の状態に戻る」わけではなく、「進行が止まり、安定した状態になる」というイメージです。
だから「初期虫歯が治った」というのは、正確には「再石灰化によって構造が安定し、これ以上進まない状態になった」ということです。
つまり、再石灰化は削らずに歯を守れる“最後の防波堤”とも言えます。
この違いを理解しておくことが、初期虫歯との付き合い方を考える上で非常に大切です。
削らない=何もしない、ではない
初期虫歯の段階では、多くの場合「削らずに様子を見ましょう」という判断になります。
これを聞いて「結局何もしなくていいんだ」と受け取ってしまうと、大間違いです。
削らないという判断は、往々にして「何もしない」ではなく「削る以外の方法で対応する」という意味です。
具体的には——
① 定期的に経過を確認すること、
② フッ素を塗布して再石灰化を促すこと、
③ ブラッシングの方法を改善すること、
④ 食習慣を見直すこと——
これらが「削らない治療」の中身です。
歯科医師が「様子を見ましょう」と言うとき、ただ放置しているわけではありません。
「今は削るより、こちらのアプローチが歯のためになる」という判断があります。
ただ——その判断が患者さんに伝わっていないと、「何もしてもらえなかった」になってしまう。
これは前回のコラムでも触れたことですが、説明不足は歯科医師の側の問題です。
(リンク:歯医者で言われる「様子を見ましょう」は、本当に“あと回し”なのか?)
C1とは何が違うのか
「C」は「う蝕(caries)」の略で、虫歯の進行度を表す分類です。
ここでは全ての説明をしませんが、C0、C1、C2、C3、C4と段階が上がるにつれて、虫歯は進行しています。
初期虫歯は「C0」に分類されます。
「虫歯のゼロ段階」と聞くと「虫歯じゃないのでは」と思うかもしれませんが、C0は「虫歯のプロセスが始まっていない」という意味ではありません。
「穴があく一歩手前まで来ている」状態を指します。
そもそも、歯に全く問題がなければ「Cなんとか」という分類さえされません。
C1は、エナメル質に「穴」があいた状態です。
この「穴があく」という現象が、初期虫歯(C0)とC1を分ける一番の違いです。
欠損(cavitation)が成立するとはどういうことか
上では、穴があくことがC0とC1を分ける一番の違いと言いました。
「穴があく」ことを、歯科の世界では「欠損(cavitation)」と言います。
偶然ですが、これもCで始まります。
エナメル質の内部でミネラルが失われ続けると、ある時点で歯の組織が限界を迎える。
その状態で、歯に圧力がかかるとその部分がボロっと崩れる。
これで「欠損の成立」です。
C0はC1となりました。
重要なのは、この欠損が成立した瞬間に「突然虫歯になった」わけではないということです。
内部では、ずっと前から変化が積み重なっていただけです。
「穴があく」というのは、長いプロセスの結果で「歯の組織が限界を迎えた」に過ぎません。
なぜC1から”治療”になるのか
穴があいた段階、つまりC1になると、削って詰める治療が必要になります。
なぜかというと、一度できた穴は自然には塞がらないからです。
穴の中には細菌が入り込み、さらに奥へと浸食を続けます。
再石灰化は「溶けたミネラルを補充する」現象であって、「壊れた構造を修復する」現象ではありません。
だから、穴があいた段階では削って詰める治療が必要になります。
初期虫歯(C0)とC1の違いは、「再石灰化で対応できるかどうか」という分岐点でもあります。
この分岐点を越えてしまうと、削らずに済む選択肢がなくなります。
当院でも、治療の判断が難しい虫歯のケースは、レントゲンなどを見た上で
「表面を触ってザラついているかどうか」
「器具が穴に引っかかるかどうか」
といった基準で考えていることが多いです。
100m走で例えるとどういう状態か
少し視点を変えてみましょう。
虫歯を100mに例えるとした場合、最初、選手はスタートラインの後ろに立っています。
まだスタートしていない——これがいわゆる「健康な歯」の状態です。
片足だけスタートラインを越えた状態が初期虫歯
そこから、脱灰と再石灰化のバランスが崩れ始めると虫歯という過程が始まります。
今回は、スタートラインを超えた時点で「虫歯」という肩書がつくと考えてください。
初期虫歯は片足だけがスタートラインを越えた状態です。
ラインを超えているので、もう虫歯のプロセスは始まってしまっています。
踏み出した片足はもう、ラインの手前に戻すことは出来ません。
しかし、もう片方の足がまだラインの内側に残っているので、それ以上は前に進むことも出来ません。
なんとも…「微妙」…な状態ですよね。
この場合、「進行」なのか「侵攻」なのかはなんとも言えないところですが、対応次第では、まだその場に留まっていることが可能になります。
これがつまり、再石灰化によって状態を安定させているC0(初期虫歯)という状態なんです。
残った片足が越える=構造が耐えられなくなる臨界点
スタートラインを跨いだ状態で、前にも進めないけど元にも戻れない…。
いつまでも上半身をモゾモゾとさせながら、脱灰と再石灰化の境界線をウロウロしていたところ、数日、磨きのこしが続いたとします。
すると途端、脱灰が続き、再石灰化が追いつかなくなってきます。
——残った片足が、遂にスタートラインを越えます。
この瞬間が、欠損(cavitation)の成立です。
内部のミネラルが失われ続けた結果、エナメル質の構造が限界を迎え、咀嚼に耐えきれなくなります。
そして、穴があきました。これがC1です。
あぁ…いよいよレースのスタートです。
後は、どんどん前に進んで行くしかありません。
もう再石灰化は期待できない。
削って、詰めて、という治療が必要になります。
大事なのは——「残った片足が越えるその瞬間」に虫歯になったわけではないということです。
ずっと前から、片足はスタートラインを越えていたんです。
「ある日、突然虫歯になった」ではなく、「ずっと続いていたプロセスが、ある時点で見える形に出た」。
これが、皆さんの知っている虫歯の正体です。
なぜ歯医者によって説明や対応が違うのか
「A医院では様子を見ましょうと言われたが、B医院では削りましょうと言われた」
こういう話は、実際によくあります。
なぜこうなるのか。
一つには、初期虫歯の診断基準が、完全に統一されているわけではないという現実があります。
エナメル質のどの段階まで再石灰化に期待するか、どの段階から削るか——
その判断には、歯科医師の経験や考え方が影響します。
ある歯科医師は「まだ再石灰化の余地がある」と判断し、別の歯科医師は「これ以上待つよりも今削った方がリスクが低い」と判断する。
どちらも、それぞれの根拠を持っている場合があります。
もう一つには、見ている時点での状態の違いがあります。
同じ「初期虫歯」でも、進行度には幅があります。
ミネラルが少し失われ始めた段階と、かなり失われて穴があく直前の段階では、対応が変わることがあります。
半年前は「様子を見ましょう」が正しかったのに、今は「削りましょう」に変わっていた——
というのは、「前の歯医者が間違っていた」のではなく、「この半年で状態が進んでいた」という可能性もあります。
そして、説明の丁寧さの違いもあります。
同じ「様子を見ましょう」という判断でも、「なぜそうするのか」を伝えるかどうかで、患者さんが受け取る印象はまったく変わります。
判断が正しくても、説明が足りなければ患者さんには伝わらない。
これは歯科医師の側の課題です。
経過観察の本当の意味
「様子を見ましょう」と言われたとき、それが本当の意味での経過観察であれば——
① 次の確認のタイミングが決まっている。
② 何を確認するのかが明確になっている。
③ どういう状態になったら治療に移行するかが伝えられている。
この3つが揃っているはずです。
「また何かあれば来てください」だけでは、経過観察になりません。
初期虫歯の経過観察とは、「進行していないかを定期的に確認しながら、再石灰化を促す環境を整える」という積極的な取り組みです。
何もしないことではなく、「削らない方法で対応し続けること」です。
初期虫歯で本当に大事なのは「理解」
初期虫歯への対応で、一番大事なのは知識でも技術でもなく、「理解」だと思っています。
「初期虫歯とは何か」を理解していると、行動が変わります。
フッ素入り歯磨き粉を使う意味が分かる。
フロスを使う意味が分かる。
定期検診に来る意味が分かる。
逆に、「よく分からないけど様子見と言われた」という状態では、何も変わりません。
歯磨きを少し丁寧にしてみるけど、何日かで戻る。
そういえば定期検診の予約を取ったけど、行くの忘れてしまってた…。
そして1年後、「C1になりました」という話になる。
これは、意志の弱さの問題ではありません。
きっと「なぜそれをするのか」が腑に落ちていないから続かないのです。
理解が行動を変えます。行動が、歯の未来を変えます。
たとえば、「間食を減らした方がいい」という話一つとっても——
「なんとなく糖分が良くないから」と理解している人と、
「食事のたびに口の中が酸性になり脱灰が起きる。だから回数を減らすことで再石灰化の時間が確保できる」と理解している人では、行動の継続力が違います。
「何のためにそれをするのか」が分かると、やめられなくなる。
初期虫歯の段階で「ちゃんと理解した」という経験は、その後の歯との付き合い方を変えるきっかけになります。
「定期検診ってなんとなく行くもの」から、「自分の歯の状態を確認しに行くもの」に変わる。
その小さな変化と積み重ねが、長い目で見ると歯の寿命に大きく影響します。
まとめ|初期虫歯は”何も起きていない状態”ではない
ここまでの内容を整理します。
初期虫歯は「虫歯の一歩手前」ではありません。
虫歯のプロセスがすでに始まっている状態です。
100m走で言えば、片足はすでにスタートラインを越えている。
ただし、穴があいていない段階では再石灰化の可能性があります。
「治る」とは「なかったことになる」ではなく、「状態が安定する」という意味です。
条件を整えることで、進行を食い止める可能性を持っているのが初期虫歯の段階です。
C1との違いは「欠損が成立しているかどうか」です。
穴があいた段階から、再石灰化での対応はできなくなります。
削って詰める治療が必要になり、その歯は「一度も削られていない歯」には戻れません。
この分岐点を越えてしまう前の段階——それが初期虫歯です。
削らないという判断は「何もしない」ではありません。
定期的な確認、フッ素塗布、ブラッシングの改善、生活習慣の見直し——これが「削らない治療」の中身です。
そして、この取り組みを続けられるかどうかは、「なぜそれをするのか」を理解しているかどうかにかかっています。
初期虫歯と言われた瞬間、「大したことないんだな」と思うか、「まだ間に合う段階だ」と思うか。
この受け取り方の違いが、半年後、1年後の歯の状態に影響します。
何も起きていないのではありません。
ただ、まだ取り返せる段階にあります。
それが、初期虫歯という状態の本当の意味です。
青山通り歯科としての考え方
当院では基本的に、初期虫歯の段階で「削りましょう」という判断はしません。
削ることで歯に与えるダメージと、削ることで得られるメリットを天秤にかけたとき、初期虫歯の段階では削らない方が歯のためになる、と考えているからです。
歯は一度削ってしまうと、元には戻りません。
削った部分には詰め物が入りますが、その詰め物はいつか劣化し、いつかやり直しが必要になる。
やり直すたびに削る範囲は広がり、歯はどんどん小さくなっていく…。
遂には「抜く」というあまりに不名誉なゴールに辿りついてしまいます。
だからこそ、削るという選択は「最後のカード」に近いものだと思っています。
初期虫歯の段階でそのカードを使う必要はない、というのが当院の考え方です。
ただし、「削らない=何もしない」ではありません。
定期的な検査で進行を確認すること、フッ素塗布で再石灰化を促すこと、ブラッシング指導で磨き残しを減らすこと——こうした取り組みを、経過観察と並行して行います。
そして一番大事にしているのは、「なぜそうするのか」をしっかり患者さんに伝えることです。
そういった意味でも、当院は割と細かい方だと思っています。
理解がなければ、行動は変わらない。行動が変わらなければ、状態は改善しない。
それは、どんなに正確な診断をして、どんなに丁寧に経過を見ていても、患者さんの日常が変わらなければ意味がないからです。
定期検診は「異常がないか確認しに行く場所」ではなく、「今の自分の歯の状態を理解しに行く場所」——そう思ってもらえると、通い方も変わってきます。
「初期虫歯と言われたけど、よく分からないまま帰ってきた」という経験がある方は、一度お話しだけでも聞きに来てみてください。
当院ではセカンドオピニオンも積極的に受け入れております。
今の状態がどういう段階にあるのか、どう対応するのが自分に合っているのかを、一緒に整理しましょう。
削るかどうかを決めるのは、その後でいい。
まず「理解すること」が、一番の出発点だと思っています。
青山通り歯科 院長
2008年に日本歯科大学を卒業後、数々の臨床経験を積み、現在は青山通り歯科の院長として患者様に寄り添う治療を提供しています。最新のデジタル技術を活用し、審美歯科から予防歯科まで幅広い診療を行うことで、多くの患者様の信頼を得ています。
また、ウェディングや建築、アーティストのポートレート撮影を中心とするプロカメラマンとしても活動しています。
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